Grassmann 代数と Cramer の法則 (連立一次方程式の解法)
Grassmann 代数と Cramer の法則 (連立一次方程式の解法)
Grassmann 代数と Cramer の法則の関連について述べる.
これは連立一次方程式の解法の一つである.
かつて Grassmann がこれを考案した後,忘れられて久しい.
ベクトルの除法が不当に禁忌とされる今日に,
この忘れられた解法は一階偏導関数のより深い応用への基礎となる.
この話題の文献としては Grassmann Algebra: Foundations: Exploring Extended Vector Algebra With Mathematica が詳しい.
Grassmann 代数を用いた連立一次方程式の解法
次の連立一次方程式の解法について考える.
但し 個の方程式は独立であり, とする.
\begin{equation}
\sum_{j=1}^n A_{ij}x_j = b_i ~~ (i\in\{1,\ldots,m\}) \label{eq:liner-equation}
\end{equation}
考える連立一次方程式に対して基底 を用いて次の -要素を定める.
\begin{eqnarray}
C_0 &:=& \sum_{i=1}^m b_i e_i, \\
C_j &:=& \sum_{i=1}^m A_{ij} e_i ~~ (j\in\{1,\ldots,n\})
\end{eqnarray}
連立一次方程式を 個の変数 について解くのだが,
これを Grassmann 代数を用いて以下のように行う.
解法の手びき
まず連立一次方程式の両辺を で足し上げる.
\begin{equation}
\sum_{i=1}^m \sum_{j=1}^n A_{ij}x_j e_i = \sum_{i=1}^m b_i e_i
\end{equation}
これをおよびで書き直して次を得る.
\begin{equation}
\sum_{j=1}^n x_j C_j = C_0
\end{equation}
今,□ は 番目が空位であることを表すものとして,次を定義する.
\begin{equation}
\underline{C_a} := C_1\wedge\cdots \wedge □_a \wedge\cdots\wedge C_n
\end{equation}
すると次が直ちに得られる.
\begin{equation}
x_a(C_a\wedge\underline{C_a}) = C_0\wedge\underline{C_a}
\end{equation}
行列式 の分数表示と同様の議論によって, もまた一意に定まるので,
次の分数表記が得られて解が得られたこととなる.
\begin{equation}
x_a = \frac{C_0\wedge\underline{C_a}}{C_a\wedge\underline{C_a}} = \frac{C_1\wedge\cdots\wedge C_{a-1}\wedge C_0\wedge C_{a+1}\wedge\cdots\wedge C_n}{C_1\wedge\cdots\wedge C_n}
\end{equation}
最右辺は分子分母で交代する数が等しいので,符号が生じないことに注意する.
こうして得られた解の表示は,分子分母を で除して行列式に書き直すことで,
Cramerの法則に他ならないことがわかる.
\begin{equation}
x_a = \frac{(C_1\wedge\cdots\wedge C_{a-1}\wedge C_0\wedge C_{a+1}\wedge\cdots\wedge C_n)/(e_1\wedge\cdots\wedge e_n)}{(C_1\wedge\cdots\wedge C_n)/(e_1\wedge\cdots\wedge e_n)}
= \frac{\det A_a}{\det A}
\end{equation}
ここで は の 列目を で置き換えて得られる行列である.
例
変数と方程式の数が等しい場合
次の連立一次方程式の解をGrassmann代数を用いて求める.
\begin{equation}
\begin{pmatrix}
1 & -2 & 3 & 4 \\
2 & 0 & 7 & -5 \\
1 & 1 & 1 & 1 \\
0 & 1 & -3 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_1 \\
x_2 \\
x_3 \\
x_4
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
2 \\
9 \\
8 \\
7
\end{pmatrix}
\end{equation}
この連立一次方程式に対して次の -要素を定める.
\begin{eqnarray}
C_0 &:=& 2e_1 + 9e_2 + 8e_3 + 7e_4, \\
C_1 &:=& e_1 + 2e_2 + e_3, \\
C_2 &:=& -2e_1 + e_3 + e_4, \\
C_3 &:=& 3e_1 + 7e_2 + e_3 – 3e_4, \\
C_4 &:=& 4e_1 – 5e_2 + e_3 + e_4
\end{eqnarray}
これから次を得る.
\begin{eqnarray}
C_1\wedge C_2\wedge C_3 \wedge C_4 &=& 41(e_1\wedge\cdots\wedge e_4), \\
C_0\wedge C_2\wedge C_3 \wedge C_4 &=& 509(e_1\wedge\cdots\wedge e_4), \\
C_1\wedge C_0\wedge C_3 \wedge C_4 &=& -30(e_1\wedge\cdots\wedge e_4), \\
C_1\wedge C_2\wedge C_0 \wedge C_4 &=& -117(e_1\wedge\cdots\wedge e_4), \\
C_1\wedge C_2\wedge C_3 \wedge C_0 &=& -34(e_1\wedge\cdots\wedge e_4)
\end{eqnarray}
故に次のとおり解が求められる.
\begin{equation}
(x_1,x_2,x_3,x_4) = \left(\frac{509}{41}, -\frac{30}{41}, -\frac{117}{41}, -\frac{34}{41}\right)
\end{equation}
変数 と方程式の数 が < の場合
次の連立一次方程式の解を Grassmann 代数を用いて求める.
\begin{equation}
\begin{pmatrix}
1 & -2 & 3 & 4 \\
2 & 0 & 7 & -5 \\
1 & 1 & 1 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_1 \\
x_2 \\
x_3 \\
x_4
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
2 \\
9 \\
8
\end{pmatrix}
\end{equation}
この連立一次方程式に対して次の -要素を定める.
\begin{eqnarray}
C_0 &:=& 2e_1 + 9e_2 + 8e_3, \\
C_1 &:=& e_1 + 2e_2 + e_3, \\
C_2 &:=& -2e_1 + e_3, \\
C_3 &:=& 3e_1 + 7e_2 + e_3, \\
C_4 &:=& 4e_1 – 5e_2 + e_3
\end{eqnarray}
元の連立一次方程式はこれらを用いて次のように書き直せる.
\begin{equation}
\sum_{i=1}^4 x_iC_i = C_0
\end{equation}
ここで今考えているGrassmann代数の最大次数は であるから,
この両辺には高々次数 の基底としか楔積をとれない.
例として を右から乗じると次を得る.
\begin{equation}
(x_2C_2 + x_3C_3)\wedge C_1\wedge C_4 = C_0\wedge C_1\wedge C_4
\end{equation}
よって次を得る.
\begin{equation}
\frac{(x_2C_2 + x_3C_3)\wedge C_1\wedge C_4}{C_0\wedge C_1\wedge C_4} = 1
\end{equation}
ここで次を用いる.
\begin{eqnarray}
C_0\wedge C_1\wedge C_4 &=& -63(e_1\wedge e_2\wedge e_3), \\
C_2\wedge C_1 \wedge C_4 &=& -27(e_1\wedge e_2\wedge e_3), \\
C_3\wedge C_1 \wedge C_4 &=& 29(e_1\wedge e_2\wedge e_3)
\end{eqnarray}
故に次の関係が得られる.
\begin{equation}
\frac{-27x_2 + 29x_3}{-63} = 1
\end{equation}
関連
参考
- John Browne
- A History of Vector Analysis: The Evolution of the Idea of a Vectorial System (Dover Books on Mathematics)
- ベクトルとテンソル | くさび積を用いて連立一次方程式を解く
- Peeter Joot
- 線型代数 (ちくま学芸文庫)
- 行列|Matrix 第2版 -グラスマンに学ぶ線形代数入門-
- Grassmann 代数と行列式
- 濫用表記のすゝめ (微分記号) | MRJ 6
Grassmann 代数それ自体について,Mathematica を利用できる方は下記の講演も参考になろう.