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コンパクトとは

数学位相空間

コンパクト

位相空間にはコンパクトという位相的な性質がある.
「コンパクトである」という性質は格段に良い性質を持っていて,
いろいろなところで議論が簡単になったり,有用な性質を比較的容易に引き出せるが,
逆に非コンパクトな場合で非自明な性質を得ることは多くの場合で難しい.

着想と背景

ハイネ-ボレルの被覆定理

次の定理は何かにつけてユークリッド空間を拠り所とする我々にとって基本的な定理となる.

ユークリッド空間の部分集合 S について次の二つは同値である.

1. S は有界閉集合である.
2. S はコンパクトである.

まだコンパクトが何であるかを定義していないので,この定理を示せないが,
この定理がコンパクトの概念の具象的なものであることを与えているという点が重要である.
つまり我々の素朴な世界であるユークリッド空間では,コンパクト集合とは有界閉集合のことなのである.

ここからコンパクトのイメージが,有界閉集合というダイレクトな例として湧いてくる1

被覆

コンパクトの定義を理解するには被覆の定義を理解することが必須である.
「(有界だから) 体積が有限なんでしょ.」という理解から脱するには少なくとも必要だ.
体積を与えるような測度とかの構造は過剰である.

集合 S の部分集合族 \mathfrak{U}(\subset 2^S) が次の条件を満たすとき,\mathfrak{U} は集合 S の被覆であるという.

$$
S = \bigcup_{U\in \mathfrak{U}} U
$$

被覆 \mathfrak{U} のうち,特別に性質の良いものには次の呼称が与えられている.

– 被覆 \mathfrak{U} の元がすべて S の開集合であるとき,その被覆を開被覆という (S が位相空間であれば,開集合の中に全体集合 S が含まれているから開被覆はいつでもとれる).
|\mathfrak{U}|\textless\aleph_0 なる被覆を有限被覆という.
– 被覆 \mathfrak{U} の部分集合 \mathfrak{V} によって S を被覆できるとき,\mathfrak{V} を被覆 \mathfrak{U} の部分被覆という.
– 開被覆であり,有限被覆でもある被覆を有限開被覆という.部分被覆でもあれば,有限部分開被覆という.

ある集合の部分集合族を考えたとき,一般には被覆に成り得ないが,
位相空間 (S,\mathfrak{O}) であれば,予め自身は構造として位相 \mathfrak{O} をもっており,
この位相は全体集合である S 自身を含んでいるので,
被覆の存在は最初から保証されている.

このようなとき,できるだけ最小構成が何であるかが重要になる.
位相空間 S には開被覆が複数あるが,その何れもある尺度でみれば開被覆を構成する上では,
余分に多く開集合を含んでいることが考えられる.

このため真に要となって機能している部分開被覆だけが重要になると考えることができる.
我々はそこでコンパクトな概念に至ることになる.
即ち余分かどうかを判定する尺度とは集合和について有限であることである.

定義

位相空間 S のすべての開被覆 \{\mathfrak{U}_i\}_{i\in\mathcal{I}} それぞれに対して有限部分開被覆 \{\mathfrak{V}_i\}_{i\in\mathcal{I}} が存在するとき,S はコンパクトな位相空間(または単にコンパクト)であるという.

$$
S = \bigcup_{U\in \mathfrak{V}_i} U ~~ (|\mathfrak{V}_i|<\aleph_0,~ i\in \mathcal{I}) ~\Leftrightarrow~ S {\rm ~is~cpt.} $$

つまり位相空間 S がコンパクトだと有限個の被覆で位相空間全体を覆えるということである.

$$
(\exists n<\infty)\left(S = \bigcup_{i=1}^n U_i\right)
$$

コメント

拡張された被覆

被覆を考える集合 S を部分集合に持つ集合 \Sigma があったとき,
\Sigma を主体としたような被覆の定義の拡張がある.
それは次の通りである.

集合 \Sigma の部分集合族 \mathfrak{U}_{\Sigma}(\subset 2^{\Sigma}) が次の条件を満たすとき,
\mathfrak{U}_{\Sigma} は部分集合 S\Sigma に於ける被覆であるという.

$$
S \subset \bigcup_{U\in \mathfrak{U}_{\Sigma}} U
$$

この「拡張された被覆」は特に \Sigma=S なるとき,最初に定義した被覆に他ならない.
このため最初に定義した被覆を得たい場合はいつでも次のように交わりを取れば良い.

$$
S = \bigcup_{U\in \mathfrak{U}_{\Sigma}} (U\cap S)
$$

このことが保証されているので,「拡張された被覆」を論じることで始め定義したところの被覆も論証したことになる.

例えば被覆が開被覆であれば,\{U\cap S\}_{U\in\mathfrak{U}}S の位相になっていないといけないが,考えるところの全体集合 S を交わりとして含んでいるので,位相の条件を満たすことは自明である.

こういった理由のため,しばしば単に被覆と言ったら,拡張された被覆を指すことが多い.
コンパクトという性質が関係する証明にも暗に拡張された被覆を度々用いることになる.

コンパクト性とハウスドルフ性

\mathbb{R}/\mathbb{Z}S^1 が同相であることを示すためには,次のことが必要である.

  • コンパクトな位相空間とハウスドルフな位相空間の間の連続な全単射写像が同相写像であること

この定理の証明のために次の三つの補題を始めに示すことにする.

コンパクトな位相空間 S_{\rm cpt} の閉部分集合もまたコンパクトである.

S_{\rm cpt} を任意のコンパクトな位相空間とし,S_{\rm cpt} から任意に閉集合 A を一つとってくる.
このときまず S_{\rm cpt} には,A を含む開被覆が存在している.

$$
\bigcup_{i\in\mathcal{I}} U_i \supset A
$$

そして A の補集合 A^c(=X\setminus A) は定義から開集合であるから,

$$
\mathfrak{U}(\mathcal{I};A) := \left(\bigcup_{i\in\mathcal{I}} U_i\right) \cup A^c
$$

は再び S_{\rm cpt} の開被覆となる.

次に S_{\rm cpt} がコンパクトであるから,

$$
\mathfrak{U}(\mathcal{J};A) = \left(\bigcup_{j\in\mathcal{J}} U_j\right) \cup A^c ~~ (|\mathcal{J}|<\aleph_0)
$$

S_{\rm cpt} の有限開被覆にとることができる.すると全体集合を覆っているものの中から,A^c を除いたとしても A を覆うことに揺らぐことはない.

よって \bigcup_{j\in\mathcal{J}} U_j \supset A だから,\bigcup_{j\in\mathcal{J}} U_j は部分集合 AS_{\rm cpt} に於ける有限開被覆になる.故に閉集合 A はコンパクトである.■

コンパクトな位相空間 S_{\rm cpt} と任意の位相空間 S があって,f:S_{\rm cpt}\rightarrow S が連続写像であるならば,像 f(S_{\rm cpt}) はコンパクトである.

S は位相空間なのでその開被覆を考えるとき,それは部分集合の一つである f(S_{\rm cpt}) を含んでいる.

$$
\bigcup_{i\in\mathcal{I}} U_i \supset f(S_{\rm cpt})
$$

従って次が言える.

$$
\bigcup_{i\in\mathcal{I}} f^{-1}(U_i) = S_{\rm cpt}
$$

これを導出するのに両辺それぞれの逆像を評価すればよくコンパクト性は使っていない.
左辺は f^{-1}\left(\bigcup_{i\in\mathcal{I}} U_i\right) = \bigcup_{i\in\mathcal{I}} f^{-1}(U_i) であり,
右辺は f^{-1}(f(S_{\rm cpt})) \supset S_{\rm cpt} であるから,まず次を得る.

$$
S_{\rm cpt} \subset \bigcup_{i\in\mathcal{I}} f^{-1}(U_i)
$$

一方で一般に f:X\rightarrow Y に対して f^{-1}(A)=\{x\in X ~|~ f(x)\in A \subset Y\} があったとき,f^{-1}(Y)\subset X であった.
よってその和集合もまたそうだから次が自明に成り立っている.

$$
S_{\rm cpt} \supset \bigcup_{i\in\mathcal{I}} f^{-1}(U_i)
$$

故に \bigcup_{i\in\mathcal{I}} f^{-1}(U_i) = S_{\rm cpt} が成立する.

さて位相空間 S_{\rm cpt} はコンパクトだから,

$$
\bigcup_{j\in\mathcal{J}} f^{-1}(U_j) = S_{\rm cpt} ~~ (|\mathcal{J}|<\aleph_0)
$$

なる有限開被覆をとることができる.よってこれは次のことを意味している.

$$
\bigcup_{j\in\mathcal{J}} U_j \supset f(S_{\rm cpt})
$$

故に像 f(S_{\rm cpt}) はコンパクトである.■

ハウスドルフな位相空間 S_{T_2} のコンパクトな部分集合は閉集合である.

開集合の補集合は閉集合,閉集合の補集合は開集合と定めたが,このことを用いて証明を行う.
つまり,ハウスドルフな位相空間 S_{T_2} から任意にコンパクトな部分集合 A を一つとってきて,
この A の補集合 A^c が開集合であることを示す.

一般に X が開集合であることと,X の任意の元 x に対して U\cap X^c=\emptyset を満たす開近傍 U をとることができることは必要十分であった.だから {}^{\forall}\bar{a}\in A^c に対して U\cap A = \emptyset なる {}^{\exists}U(\ni \bar{a}) が存在することを示せばよい.
それは以下の通り.

今,a\in A ならば a\neq \bar{a} だから,ハウスドルフであることより,これらを分離する開集合をとることができる.

$$
U_{\bar{a}} \cap V_{a} = \emptyset
$$

このことがすべての a\in A について,上記の方法で \{U_{\bar{a}}, V_a\}_{a\in A} をとってこれる (選択公理).

すると \bigcup_{a\in A}V_a\supset A なのだから,A がコンパクトであることと合わせて,次の有限開被覆が存在することになる.

$$
A \subset \bigcup_{i\in\mathcal{I}} V_{a_i} ~~ (|\mathcal{I}|<\aleph_0,~ a_i\in A)
$$

故に次に定義する開集合 U は存在を示したい開集合になっている.

\begin{gather}
U := \bigcap_{i\in\mathcal{I}} U_{a_i} ~~ (|\mathcal{I}|<\aleph_0,~ a_i\in A) \\
U\cap A \subset U\cap \left( \bigcup_{i\in\mathcal{I}} V_{a_i} \right) = \emptyset
\end{gather}

コンパクト性,ハウスドルフ性,連続写像,そして同相写像

コンパクトな位相空間 S_{\rm cpt} とハウスドルフな位相空間 S_{T_2} があって,h:S_{\rm cpt}\rightarrow S_{T_2} が連続な全単射写像であるならば,h は同相写像である.

証明は先に述べた三つの補題を順に用いて行う.これら補題は次の主張だった.

  • コンパクトな位相空間 S_{\rm cpt} の閉部分集合もまたコンパクトである.
  • コンパクトな位相空間 S_{\rm cpt} と任意の位相空間 S があって,f:S_{\rm cpt}\rightarrow S が連続写像であるならば,像 f(S_{\rm cpt}) はコンパクトである.
  • ハウスドルフな位相空間 S_{T_2} のコンパクトな部分集合は閉集合である.

定理の仮定(全単射であること)から h^{-1} が存在するので,後は証明のために h^{-1} が連続写像であることさえいえればよい.
即ち S_{\rm cpt} の開集合 U について,像 h(U)S_{T_2} の開集合であることさえいえればよい.
証明は次の通りである.

はじめに U^c = S_{\rm cpt}\setminus U が閉集合であることから,第一の補題より,U^c はコンパクトである.
続いて第二の補題より,像 h(U^c) もまたコンパクトである.
そして第三の補題より,h(U^c) は閉集合である.

所で h は全単射であるから次が成り立つ.

$$
h(U^c) = S_{T_2} \setminus h(U)
$$

これは h(U)S_{T_2} の開集合であることを正に表している.よって示された.■

チコノフの定理

余談になるがコンパクト性とハウスドルフ性に関する補題「ハウスドルフな位相空間 S_{T_2} のコンパクトな部分集合は閉集合である.」を示す際に選択公理を必要とした.

今の文脈で多少なりとも関連する有名な定理を証明抜きに次に挙げておく.

任意個のコンパクトな位相空間の直積空間はまたコンパクトな位相空間である.

チコノフの定理の証明には選択公理が必須で,
また直積を構成する各コンパクト空間が T_1 空間であるならば,
チコノフの定理と選択公理が同値であるということが知られている.

ハウスドルフだがコンパクトでない例

「コンパクト性,ハウスドルフ性,連続写像,そして同相写像」に関する定理で関係付く二つの位相空間はそれぞれ同相となるので,何れもコンパクト且つハウスドルフとなる.

しかし定理の主張に表れている写像 h がない限り,そのようにはならない.
例えばつまりハウスドルフであるからといって,(当然ながら) いつでもコンパクトではない.
自明な例が \mathbb{R} である.これはハウスドルフであるがコンパクトではない.

商空間 \mathbb{R}/\sim と円 S^1 が同相であること

商位相」で \mathbb{R}/\simS^1 が同相であることを示した.
そこでの証明ではコンパクト性に関する部分だけ仮定した事柄があった.
それが「コンパクト性,ハウスドルフ性,連続写像,そして同相写像」に関する定理として証明した事柄である.

ほぼ直感で片付けてしまうようなことでも,いざ証明しようとすると,よく整理されたいろいろな概念が必要となり,中々に大変だということが理解できよう.

参考


  1. ただやはりというか無限次元空間を扱う場合は,有界閉集合とコンパクト性は同値ではなくなるので注意する. 

2019-01-09数学位相空間