誤謬:複素数冪の指数法則 2
誤謬
次の指数法則は複素数の冪についていつでも成り立つ.
$$
(z^{\alpha})^{\beta} = (z^{\beta})^{\alpha} = z^{\alpha\beta}
$$
判定方法
指数 と が共に整数であるか,
もしくは主枝をとった場合は,表題の指数法則はいつでも成り立つ.
それ以外の場合は特別な場合を除いて保証されない.
その特別な場合の中には注目すべき場合があり,コメントで詳しく述べる.
反例
後で述べるように, で, について,以下の計算となる.
$$
(z^{\alpha})^k = z^{k\alpha}
$$
一方で次が得られる.
$$
(z^k)^{\alpha} = e^{2\pi i\alpha m} z^{\alpha k}
$$
つまり主枝 でない場合には一致しない.
またもし である場合には,
主枝の他にも,既約分数の分母を相殺する分枝を選んでいれば一致するが,それ以外は一致しない.
コメント
基本事項
複素数の冪関数は次のように定義された.
$$
z^{\alpha} := e^{\alpha\log z}
$$
そして複素対数関数は次のように定義された.
\begin{eqnarray}
\log z &:=& \{\ln |z| + i\arg z \mid z\neq 0 \}, \\
\arg z &:=& \{\mathrm{Arg} z + 2\pi n \mid z\neq 0 \land n\in\mathbb{Z}\}, \\
\mathrm{Log} z &:=& \ln|z| + i\mathrm{Arg} z
\end{eqnarray}
ここで多価性は偏角部分 に表れている.
これらを基礎に丁寧に見ていけば,自ずと誤謬が明らかとなる.
今回は更に以下の等式が重要になる.
\begin{eqnarray}
\log z^{\alpha} &=& \{\alpha \log z + 2\pi i n \mid z\neq 0 \land n\in\mathbb{Z}\}, \\
\log z^{\frac{1}{k}} &=& \frac{1}{k}\log z ~~ (k\in\mathbb{Z})
\end{eqnarray}
と そして について
と を評価すると次のようになる.
\begin{eqnarray}
(z^{\alpha})^{\beta} &=& e^{\alpha\beta\log z + 2\pi i\beta n}, \\
(z^{\beta})^{\alpha} &=& e^{\alpha\beta\log z + 2\pi i\alpha m}, \\
z^{\alpha\beta} &=& e^{\alpha\beta\log z}
\end{eqnarray}
こうして次を得る.つまり何れも一般には一致しない.
\begin{eqnarray}
(z^{\alpha})^{\beta} &=& e^{2\pi i\beta n}z^{\alpha\beta}, \\
(z^{\beta})^{\alpha} &=& e^{2\pi i\alpha m}z^{\alpha\beta}
\end{eqnarray}
この結果から特に次が成り立つとわかる.
いかなる分枝についても次が成り立つ.
$$
(z^{\alpha})^k = z^{k\alpha} ~~ (k\in\mathbb{Z},\alpha\in\mathbb{C})
$$
しかし次が成立することはその限りでなく,指数の順序を安易に変更できない.
$$
(z^{\alpha})^k = (z^k)^{\alpha} ~~ (k\in\mathbb{Z},\alpha\in\mathbb{C})
$$
証明略■
注目すべき特別な場合
いかなる分枝についても次が成り立つ.
$$
(z^{\frac{1}{k}})^{\alpha} = z^{\frac{\alpha}{k}} ~~ (k\in\mathbb{Z},\alpha\in\mathbb{C})
$$
複素数冪関数の定義から次を得る.
$$
(z^{\frac{1}{k}})^{\alpha} = e^{\alpha\log z^{\frac{1}{k}}}
$$
ここで より,分枝の選択に関わらず, が成り立つから次が得られる.
$$
e^{\alpha\log z^{\frac{1}{k}}} = e^{\frac{\alpha}{k}\log z} = z^{\frac{\alpha}{k}}
$$
これは示したいことだった.■
いかなる分枝についても次が成り立つ.
$$
\frac{1}{z^{\alpha}} = \left(\frac{1}{z}\right)^{\alpha}
$$
いかなる分枝についても次が成り立つことが既に示されている.
\begin{eqnarray}
(z^{\alpha})^k &=& z^{k\alpha} ~~ (k\in\mathbb{Z},\alpha\in\mathbb{C}), \\
(z^{\frac{1}{l}})^{\alpha} &=& z^{\frac{\alpha}{l}} ~~ (l\in\mathbb{Z},\alpha\in\mathbb{C})
\end{eqnarray}
これらの右辺が一致するのは の場合である.
非自明な場合は の場合であり,それは題意の主張に他ならない.■