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誤謬:複素数冪の指数法則 1

数学的誤謬複素関数論

誤謬

 

次の指数法則は複素数の冪についていつでも成り立つ.

$$
z^{\alpha}z^{\beta} = z^{\alpha + \beta}
$$

 

判定方法

指数 \alpha\beta が共に整数であるか,
もしくは「すべて主枝」もしくは「すべて同じ分枝」をとった場合は,
表題の指数法則はいつでも成り立つ.
それ以外の場合は特別な場合を除いて保証されない.

反例

今回の反例は例のための例という感があるため省略する.
その理由は分枝をバラバラに選ぶような偏角を考える場合であり,
そのような場合はそうそうない.

コメント

基本事項

複素数の冪関数は次のように定義された.

$$
z^{\alpha} := e^{\alpha\log z}
$$

そして複素対数関数は次のように定義された.

\begin{eqnarray}
\log z &:=& \{\ln |z| + i\arg z \mid z\neq 0 \}, \\
\arg z &:=& \{\mathrm{Arg} z + 2\pi n \mid z\neq 0 \land n\in\mathbb{Z}\}, \\
\mathrm{Log} z &:=& \ln|z| + i\mathrm{Arg} z
\end{eqnarray}

ここで多価性は偏角部分 \arg z に表れている.
これらを基礎に丁寧に見ていけば,自ずと誤謬が明らかとなる.

z^{\alpha}z^{\beta}z^{\alpha + \beta} について

z^{\alpha}z^{\beta}z^{\alpha + \beta} を評価すると次のようになる.

\begin{eqnarray}
z^{\alpha}z^{\beta} &=& e^{(\alpha + \beta)\mathrm{Log} z + 2\pi i(\alpha n + \beta m)}, \\
z^{\alpha + \beta} &=& e^{(\alpha + \beta)\mathrm{Log} z + 2\pi i(\alpha + \beta)k}
\end{eqnarray}

ここに n,m,k\in\mathbb{Z} であり,z^{\alpha},z^{\beta},z^{\alpha+\beta} に対する多価性である.
よって次を得る.

$$
z^{\alpha}z^{\beta} = e^{2\pi i[\alpha(n-k) + \beta(m-k)]} z^{\alpha + \beta}
$$

つまり単純な指数法則は次の場合を除いて一般には成立しない.

$$
(\delta :=) \alpha(n-k) + \beta(m-k) \in \mathbb{Z}
$$

これから普通の指数法則が成立する場合とは次だとわかる.

  • 任意の複素数 \alpha,\beta に対して,すべて主枝を取る場合
  • 任意の複素数 \alpha,\beta に対して,すべて同じ分枝を取る場合 (n=m=k)
  • 任意の分枝に対して,指数 \alpha\beta が共に整数の場合
  • この他,\delta=0 であるような特別な場合

参考

2020-10-08数学的誤謬複素関数論