定積分 No.4
定積分 No.4
$$
\mathrm{p.v.}\int_0^{\infty} dx \frac{1}{x^3 – 1} = -\frac{\pi\sqrt{3}}{9}
$$
使用するトリック
積分領域に被積分関数は特異点 を含んでいるので,一般に積分値は極限の取り方に依存する.そのような極限の取り方の一つがコーシーの主値積分である.主題の定積分がコーシーの主値積分を表している.特異点を とするとき定義は次のとおり.
$$
\mathrm{p.v.} \int_a^b dx f(x) := \lim_{\varepsilon\rightarrow +0} \left( \int_{a}^{c-\varepsilon}dx f(x) + \int_{c+\varepsilon}^{b}dx f(x) \right)
$$
注意すべきはコーシーの主値積分は極限の取り方を与えるものであって,収束までは保証しない.
発散する場合もあるし,不定な場合もある.
以上は計算に意味を持たせる定義に過ぎない.今回のトリックは部分分数分解である.
を因数分解すると次のとおり.
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x^3 – 1 = (-x + 1) (x^2 + x + 1)
$$
一般に次の部分分数分解が成り立つ.
$$
\frac{px^2+qx+r}{(ax+b)(cx^2+dx+e)} = \frac{A}{ax+b} + \frac{Bx}{cx^2+dx+e} + \frac{C}{cx^2+dx+e}
$$
我々はこれを用いる.
導出
被積分関数を部分分数分解すると次のとおり.
$$
\frac{1}{x^3 – 1} = \frac{1/3}{x-1} + \frac{-x/3}{x^2+x+1} + \frac{-2/3}{x^2+x+1}
$$
右辺第二項の分子を分母の微分となるようにしつつ,右辺第三項は平方完成しておく.
つまり前者および第一項は対数関数を得る積分,後者は逆正接関数を得る積分であることを見抜く.
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\frac{1}{x^3 – 1} = \frac{1}{3(x-1)} – \frac{2x+1}{6(x^2+x+1)} – \frac{1}{2\left[(x+\frac{1}{2})^2+\frac{3}{4}\right]}
$$
よってこれを不定積分すると次を得る.
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\int dx \frac{1}{x^3 – 1} = \frac{1}{6}\ln\left(\frac{x^2-x+1}{x^2+x+1}\right) – \frac{1}{\sqrt{3}}\arctan\left(\frac{2x+1}{\sqrt{3}}\right)
$$
これを基にコーシーの主値積分を行い雑多な計算を行うと次のとおりである.
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\mathrm{p.v.}\int_0^{\infty} dx \frac{1}{x^3 – 1} = \frac{1}{\sqrt{3}} \lim_{\varepsilon\rightarrow +0} \left[ -\arctan\left(\frac{3 – 2\varepsilon}{\sqrt{3}}\right) + \arctan\frac{1}{\sqrt{3}} – \frac{\pi}{2} + \arctan\left(\frac{3 + 2\varepsilon}{\sqrt{3}}\right) \right]
$$
この極限は存在して所望の実数値を与える.
感想戦
部分分数分解は不定積分の一般論を展開する上でも基礎となるが,分数である以上は特異点の問題が避けられない.
従ってコーシーの主値積分の話題が必然的に表れることになる.
後は部分分数分解する以上は項別の積分が増えるので,やや退屈な計算が続くことになりやすい.
部分分数分解した不定積分結果が逆正接関数を含むと,定積分することで円周率 もまたよく表れる.今回の計算では 由来の円周率 が最後に残っている.この他,円周率 と の冪との積であることも面白い.つまり意識的に書けば次のようになる.
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\mathrm{p.v.}\int_0^{\infty} dx \frac{1}{x^3 – 1} = -\pi 3^{\frac{1}{2} – \frac{2}{1}}
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