疑義

 

\[\log x = \ln x + 2\pi i ~~ (x>0)\]

これはよく知る対数関数と明らかに違う. 引数が実数に対して,右辺には虚部が存在している. 何かの間違いではないか?

 

紐解き

複素対数関数とは何だったか

対数関数には $\log_a$ や $\ln$ といった記号を用いる. 疑義が持たれる等式の左辺は底が明示されていないが, これは複素対数関数を表す記号として用いている.

特に断りがない限り,複素対数関数は多価関数であり, 定義は次で原点を除いて定義される.

\[\log z := \{\ln |z| + i\arg z \mid z\neq 0\}\]

多価関数はもはやシングルトンでない集合であるから,集合記法を陽に書いている.

対応と写像

そして多価性は偏角部分 $\arg z$ にある.

\[\arg z = \{\mathrm{Arg} z + 2\pi n \mid n\in\mathbb{Z}\}\]

ここで $\mathrm{Arg}$ は偏角の主枝であり, 一価関数であるような偏角の範囲であれば何でも良い. 例えばブランチカットを負の実軸とすれば,次のように値域が定まる.

\[-\pi < \mathrm{Arg} z \leq \pi\]

特に主枝を選んで得られる複素対数関数を対数主値といって,次のように書いた.

\[\mathrm{Log} z := \ln |z| + i\mathrm{Arg} z ~~ (z\neq 0)\]

複素対数関数を実引数にとると

複素対数関数は原点を除いて定義されたので, 特に実数引数を考えれば,次の多価関数が得られる.

\[\log x = \{\ln |x| + i\arg x \mid x\in\mathbb{R}\setminus\{0\}\}\]

ここで更に引数を正実数だとすれば,偏角の主値は $0$ となるから, 次の多価関数が得られる.

\[\log x = \{\ln x + 2\pi in \mid n\in\mathbb{Z} \land x > 0 \}\]

このうち $n=1$ なる分枝を選択すれば, 次の疑義を覚えるであろう式を正当に得る.

\[\log x = \ln x + 2\pi i ~~ (x>0)\]

コメント

主枝をとると

普通,分枝としては主枝である $n=0$ の場合を選択するため, 次を考えることがとても多い.

\[\mathrm{Log} x = \ln x ~~ (x>0)\]

すると記号 $\mathrm{Log}$ と $\ln$ が一致することとなり, 複素対数関数の本来の定義を忘れがちになる. そして連動して,虚部がでてくる出自がわからなくなりがちである.

負実数引数について

同様に引数を負実数にとると,偏角の主値は $\pi$ となるから, 次の多価関数が得られる.

\[\log x = \{\ln |x| + i(\pi + 2\pi n) \mid n\in\mathbb{Z} \land x < 0 \}\]

特に主枝を選択して次が得られる.

\[\mathrm{Log} x = \ln |x| + i\pi ~~ (x < 0)\]

この場合には虚部が主枝の場合でも表れる. よって特に次を得る.

\[\mathrm{Log} (-1) = i\pi\]